法人インタビュー
外国人介護士3人娘の【成長日記】|スキルUPの事例紹介!
人手不足で“外国人材採用”に関心があっても、「どうやって採用すればいいの?」「準備や育成の方法がわからない」「日本語やコミュニケーションは大丈夫?」などとお悩みの介護サービス事業所の方も多いのではないでしょうか。
そんな皆さんの不安や疑問を解消するために、3人の外国人介護士が活躍している『デイサービス暖団』さんを直撃するシリーズ第2弾!
今回は、“3人娘”の採用にまつわる実例と、入社後1年間の実務スキルに関する育成計画や皆さんの成長ぶりについて、同施設の施設長・寺﨑さんに伺いました。
大切なのは、日本語能力+“想い”
初めての外国人材、その採用基準は――
初めての外国人材採用にあたって、どのような採用基準を設けていたのでしょうか。
「まず、『日本語能力試験N3以上』を一つの基準にしていました。
その理由は、いろいろな特定技能の外国人材の方と面接させていただくなかで、N4レベルの方ですと、『実際の仕事中の会話と同じくらいのスピードでのやり取りが、少しむずかしい』と感じたからです。
質問の意図とちがう回答が返ってくることもあったので、やはりある程度の日本語能力は必要だと考えました。
実際に面接する前は『うまく質疑応答ができるだろうか』という不安もありましたが、ユアブライトさんの通訳さんにも同席いただいたので心強かったです」
「サポートしてあげたい」と感じさせる熱意
日本語の能力以外に、仕事に対する姿勢も重視したそうです。
「熱意や意欲、目標など、その方の“想い”も考慮させていただきました。
たとえば、面接終了時に『何か質問はありますか?』と問いかけた際に、どんどん質問してくださる方は、当社に対して興味を持ってくださっていると感じましたし、その熱心さに対して『私たちもサポートしてあげたいな』という思いに駆られました。
また、これは日本人スタッフの採用にも共通することですが、前向さや明るさも介護の仕事をするうえで非常に重要だと考えています」
日本語能力N3の“3人娘”を採用した理由
最年長で《しっかり者》のフォンさん
そして、2019年に特定技能「介護」のベトナム人の“3人娘”を採用。実際の採用理由を教えていただきました。
「日本語能力については、皆さん、N3です。すごく日本語が上手で、日常会話に関してはまったく問題ありませんでした。
個別の採用理由としては、3人のなかで最年長で29歳(当時。以下同)だったフォンさんは、『考え方がしっかりされている』という点です。
周囲に流されない性格で、役所の手続きもすべて自分でできるということで、『これだけのしっかり者ならば大丈夫だろう』と感じました」
《クール》なハさんは看護系の知識も
22歳のハさんは、はっきりと自己主張するタイプの方だそうです。
「まだお若いのに、自分の考えや意見を明確に主張されるところがいいなと思いました。
彼女は3人のなかで1番《クール》な性格で、自分自身というものを持たれているというのが第一印象でした。
また、もともとベトナムで看護系の勉強をされていたという点も採用に至ったポイントです」
トイさんの《愛嬌》の好影響に期待
最年少で21歳だったトイさんは、2人とは少しちがう観点で採用を決めたといいます。
「彼女はとても愛嬌がある方で、面接で『絶対に、この方はご利用者さまに元気を与えるような存在になるな』と感じました。
また、介護の仕事にすごく興味を持たれていたのも採用理由の一つです。さらに、『日本で働きたい』『家族の役に立ちたい』という強い意志を持っていらっしゃる点も採用理由です」
【3人娘を直撃!】 介護の仕事をしようと思った理由は?
フオンさん/日本は介護の技術や環境などが進んでいるので、学びたいと思いました。また、もし将来的にベトナムへ帰ることになったら、家族のお年寄りをお世話できるとも考えました。
ハさん/学生時代に介護施設でアルバイトをしたことがあったので、またこの仕事がしたいと思いました。
トイさん/介護は日本にいる外国人でも就業しやすい仕事ですし、ひとのお手伝いをするのが好きなのでチャレンジしようと思いました。
育成計画の立て方にも工夫を
日本人スタッフの約2倍の習得期間を想定
3人を受け入れるために、デイサービス暖団さんでは1年間の育成計画を立てました。
「計画は日本人スタッフの育成計画をもとに作成していて、習得するスキルや流れ、ステップなどの内容は基本的に変わりません。
唯一異なる点は、シリーズ初回でもお伝えしたように、それぞれのスキルを習得するステップに日本人スタッフの2倍の時間をかけていることです。
計画をつくること自体は大変ではありませんでしたが、『実際にどれくらいの期間で一つ一つの業務を習得されていくか』ということが予測できない点は多少不安でした」
現場スタッフの参加がプラスの効果を!
計画づくりには、現場の日本人スタッフの方からの意見やアドバイスも積極的に取り入れました。
「全体的な計画の作成は私が行いましたが、私が立てた“大目標”に対して、OJT担当の職員が中心になって詳細な“中目標”や“小目標”を決めてくれました。
計画を運用してから、3人が理解しにくい部分を細やかにフォローするためにも、OJT担当者をはじめ現場スタッフに計画づくりから関わってもらってよかったと思っています」
適切なステップを踏みながらスキルアップ
入社後2ヵ月間は、“お互い”を知る期間に
実際の計画は、どのような内容だったのでしょうか――。
「まずは、3人とご利用者さまに、それぞれお互いのことを知っていただくことからスタートしました。
最初の2ヵ月間は、来退出時の挨拶の徹底や、ウェルカムドリンク提供時のちょっとしたコミュニケーションなどを中心に組み立てました。
3人が自分の名前や性格などをご利用者さまにPRするのと同時に、個々のご利用者さまについても認識してもらおうと考えたからです。
それと並行して、1日の業務の流れも覚えていただきました」
ご利用者さまとのトラブルを未然に防ぐ
そして、3ヵ月目から、実際にご利用者さまに接する業務に移行していったといいます。
「お互いに対する理解が深まったところで、機能訓練指導や、ご利用者の方々の前で行う準備体操などを実践していただきました。
最初に3人とご利用者さま双方の信頼関係をある程度構築して、それからマンツーマンで関わる業務を実施したことで、トラブルや苦情などを未然に防げたのではないかなと思います」
また、送迎の添乗業務を始めたのもこの時期とのことです。
「送迎車の安全な乗り降りの動作や、ご利用者さまのご家族とのコミュニケーションの仕方なども踏まえて、実務を通して覚えていってもらいました。
半年目から、《一介護士》として独り立ちを目指す
6ヶ月目からは、準備体操の延長として、認知症予防の脳トレなどを中心とした集団体操の指導も担当することに。
「それまでは、指導対象のご利用者さまは10名弱くらいでしたが、集団体操では20~30名ほどのご利用者さまの前で実技を行いました。
同時に、3人が《一介護士》として活躍できるようになっていただくために、入浴介助の研修なども始めました。
6ヶ月目からの3ヵ月間で、ご利用者さまお一人お人の既往歴や、入浴時などの身体介助レベルなどを把握してもらうことが大きな目的でした」
仕事に慣れ始めた“3人娘”に変化が……
入社6ヵ月を経過したあたりで、3人に少し変化があったそうです。
「仕事に慣れてきたこともあって、業務中に多少の“隙”が出てきました。
そこで、仕事に飽きさせない工夫として、『そろそろ事務業務をやってみようか』など、“新鮮な業務”を提供。それぞれの方の発言やしぐさ、やる気などを随時気にかけながら、常に新しい仕事を任せて、計画スケジュールも臨機応変に変えていきました」
フロアでの業務以外に、パソコン入力などもスタート
そして、入社9ヶ月目から、本格的にパソコン作業や事務作業などにもチャレンジ!
「たとえば、備品の在庫数や、その日のご利用者さまの人数や出勤したスタッフの名前などをパソコン上の業務日誌に入力するといった業務にも取り組んでもらいました。
最初は数え間違いや打ち間違いも見られましたが、失敗も繰り返しながら覚えていって、12ヵ月目にはご利用者さまの1ヵ月間の様子を記録するモニタリング業務も加えました」
【3人娘を直撃!】 仕事を覚えるうえで、大変だったことは?
フォンさん/最初、ご利用者さまとのやり取りに慣れるまでは、コミュニケーションの取り方がむずかしかったです。
ハさん/認知症の方や、お体が弱くて倒れやすい方々のケアや見守りなど、常に気をつけていなければいけないことが大変でした。
トイさん/働き始めた頃は、私の日本語の発音がご利用者さまに伝わらず、私もご利用者さまの日本語をうまく聞き取れずに苦労しました。
●1年間で「成長した」ことと、わかった課題
対ご利用者さまの業務は、ほぼ完ぺきに
1年間の育成計画を通じて、“3人娘”の皆さんはかなり成長したようです。
「全員、日々のご利用者さまとのコミュニケーションに関する業務スキルは確実に上がりました。
車の送迎における添乗や、フロア内の見守り、集団体操の指導なども含む機能訓練の指導、入浴介助なども、予定通りにマスター。皆さん、《一介護士》として人員計画に入れられるほどに成長しています」
「理解力の個人差」への対応が今後の課題
業務スキルを習得していくなかで、「個人差が大きい」と感じた部分もあったそうです。
「一つ一つの業務の成り立ちや仕組みの理解に関しては、個人差が見られました。
たとえば、『AとBの業務を行えば、次のC業務ができる』といった物事の順序の把握が苦手な方もいらっしゃいます。そういう場合は、「なぜ、まずAとBをしなければならないのか」ということをゼロから説明する必要があると痛感しています。
個人差はあって当然ですし、外国人材の方に限った課題ではありませんので、これからも基本的に日本人スタッフと同様の教育の仕方で進めていくのが当施設の方針です」
“感心”や“感動”にあふれた1年間
予想以上の成長の裏にあった、地道な努力
驚くほどの成長ぶりが見られたスキルがあったといいます。
「これも3人全員に共通していますが、6ヶ月目から始めた集団体操や、大勢の方の前で話す業務は、予想以上の速さでマスターされました。
日本人スタッフでも緊張する業務なので『時間がかかるんじゃないかな』と思っていたのですが、皆さんがオープンな性格ということもあって、特に抵抗なくスキルアップしていってくださいました」
3人でオフタイムにも練習していたという話を聞いて、「すごいな」と感心したという寺﨑さん。
「皆さんが同じ社員寮に住んでいて、帰宅後やお休みの日にも自主練習していたと聞きました。
「先生役とご利用者さま役を交替で行うなど、地道な努力は続けていらっしゃったようで、そのスキルアップぶりはこの1年間で特に印象に残っています」
日本人スタッフから質問する姿に感動!
ほかにも、“感動”したことがあると教えてくださいました。
「彼女たちに対して、日本人スタッフがご利用者さまの入浴方法などを質問している姿を見たときは、ものすごく感動しました。
質問していた日本人スタッフにあとから聞いてみたところ、『ご利用者さまお一人お一人の入浴介助に関する情報を、彼女たちが一番把握しているから』とのことでした」
「そこまでのスキルを身につけたんだな――」
また、ご利用者さまからのうれしい言葉も!
「『今日の担当は、●●さんなのね!よかったわ』『今日の●●さんの入浴が楽しみ!』といった声が、日常的に出てくるようになりました。
『1年間でそこまでのスキルを身につけたんだな――』と、感慨深かったですね」
「何よりも『ゼロから覚えよう』という姿勢がすばらしい!」と、“3人娘”のスキルアップぶりについて、寺﨑さんは笑顔で振り返ります。
“3人娘”自身も自分たちの成長を実感しているようで、現在も前向きにスキルアップに取り組んでいます!
【3人娘を直撃!】 1年間でできるようになったことは?
フオンさん/チームワークに関するスキルが身につきました。そして、周囲の皆さんに信頼していただけて、副リーダー業務を任せてもらうことができました。
ハさん/認知症の方や感情の起伏が激しい方に対して、適切に対応できるようになりました。
トイさん/観察能力が身についたと思います。ご利用者さまと一緒に行う運動やゲームを考えられるようにもなりました。
次回は、日本語でのやり取りなど《コミュニケーション》に関する1年間の変化や成長ぶりをお伝えします。ぜひご覧ください!
【教えてくださった事業所さん】
『デイサービス暖団』
1952年創業の病院内自動搬送設備メーカー『日本シューター』が運営する介護予防デイサービス。2006年に京都西大路に1号店をオープンし、現在、京都と滋賀で3店舗を展開。“自分らしく”をテーマに、『自分でできることは、自分で決定して、自分で動く』という利用者主体の自立支援をサポートする。