外国人労働者の雇用は、人手不足の解消や多言語サービスの展開など、企業にとって大きなメリットをもたらします。一方、雇用にあたっては在留資格について正しく理解し、企業が雇用に責任を持つことが求められます。ここでは、外国人労働者を雇用する際の流れから、採用にあたり企業が知っておくべきポイントについて解説します。

企業が外国人労働者を採用するメリットとは?

企業が外国人労働者を雇用することにより、以下のようなメリットを享受することができます

  • 人材不足の解消
  • 多言語対応などサービスの拡充
  • 新規事業の創出
  • 専門性の高い人材の採用

それぞれについてご説明します。

人材不足の解消

新型コロナウイルス感染症の影響で、現在は新規外国人の受け入れ数が減少しているものの、日本国内で働く外国人労働者数は2021年10月時点で約172万人と過去最高を記録しています。

その背景には、国内の人材不足への懸念があります。少子高齢化が進む日本では、労働人口が減少し、国民の2.6人に1人が65歳以上の高齢者になる予測もされています。職業別にみると、土木・建設・社会福祉・介護サービス・飲食調理などの職業で求人数よりも求職者が少ない状態が続いています。

採用する対象を外国人労働者にまで広げることで、慢性的な人手不足の解消が期待できます。

多言語対応などサービスの拡充

日本で働く外国人労働者が年々増加しているということは、日本語以外のサービスの需要も高まっているということを意味します。さらに、将来的に旅行需要が回復すれば、多くの国からの来訪が期待でき、その際にさまざまな言語で対応できるスタッフがいることで、充実したサービスを届けることが可能になります。

新規事業の創出

海外展開にあたっては、現地の文化に適した業態が求められます。スタッフを雇用するにあたっても、その土地の法律から風習への理解が不可欠です。外国人労働者は、こうした海外での事業展開に大きな力となる可能性を秘めています。

また、日本にはないサービスやアイディアなどを知る機会が得られることで、新規事業の創出にもつながる可能性があるでしょう。

People with different skills connecting together online and working on the same project, remote working and freelancing concept

専門性の高い人材の採用

専門スキルや経歴を持つ人材を雇用したいと考えても、国内の市場では採用できないという場合もあるでしょう。そうしたケースでも外国人労働者の雇用が助けになることがあります。採用の対象を広げることで、企業のニーズにあった人材と出会う確率が上がり、採用の成功につながります。

外国人労働者を採用する際の注意点

外国人労働者を雇用するメリットがある一方で、雇用にあたって企業が気を付けるべきポイントがあります。

雇用に適した在留資格を持っているか

外国人労働者を雇用するにあたっては、その人物が就労可能な在留資格を持っているかを確認する必要があります。

外国人の日本滞在を許可する在留資格には、29の種類があります(2022年現在)。そのうち、「永住者」や「日本人の配偶者等」といった在留資格は、働く上での制限がありません。

一般的に「就労ビザ」と呼ばれるような、「技能・人文知識・国際業務」「技能」といった在留資格は、取得に一定以上の学歴や職歴が求められる上、労働が許される仕事の範囲が定められています。

そのため、現在、働くことが可能な在留資格を持っていても、そのまま雇用できるとは限りません。例えば、調理師等が取得する「技能」の在留資格で滞在する人を中学校の教員として雇用する場合は、「教育」の在留資格に切り替えなければならないのです。

また、「特定活動」の「ワーキングホリデー」のように、仕事内容を限定しない在留資格もありますが、期限が決まっているなど、既存の在留資格ごとに条件を確認する必要があります。

在留資格についてのポイント

在留資格を確認する際には、下の3つのポイントをチェックしましょう。

  • 現時点で持つ在留資格の種類を確認する
  • その在留資格で許可されている仕事内容や期限を確認する
  • その在留資格で許可されている条件と、自社で雇用予定のポジションの条件が合致するかを確認する

参考:在留資格一覧表|出入国在留管理庁

内定から就業開始まで時間がかかる可能性

すでに日本国内に滞在する外国人で、雇用予定のポジションで働いても問題ない在留資格を有している場合は、スムーズに就業を開始できます。しかし、在留資格の切り替えが必要であったり、海外から呼び寄せたりする場合には、内定を出してから就業が可能になるまで、ある程度の時間がかかります。

在留資格の切り替えが必要な場合

既存の在留資格では認められない仕事内容に従事する場合や、留学生を正社員として雇用する場合などは、在留資格の切り替えが必要です。在留資格の切り替えには「在留資格変更許可申請」を行います。

審査期間は2週間から1か月となっていますが、雇用契約書の作成や学歴証明といった必要書類の準備にかかる時間を踏まえ、就業開始まで余裕を持たせることが重要です。

参考:在留資格変更許可申請|法務省

海外から呼び寄せる場合

海外にいる外国人を雇用し日本で働いてもらう場合には、企業がスポンサーとなって在留資格の申請手続きを行うことができます。この手続きを「在留資格認定証明書交付申請」といいます。

この手続きでは、まず企業が必要書類を揃え申請を行います。申請が許可されると、出入国在留管理庁より「在留資格認定証明書」が発行されます。この証明書を雇用予定の本人に送付し、これをもって居住地にある日本公館にて査証(ビザ)の申請を行います。査証が発行されると、外国人が日本に渡航できるようになります。

在留資格認定証明書交付申請の手続きは、1か月から3か月かかるとされています。その上で、発行された在留資格認定書の有効期限は3か月です。有効期限内に本人が入国しなければ認定書が無効となります。外国人労働者が海外に居住している場合は、一層スケジュールに気を配る必要があります。

参考:在留資格認定証明書交付申請|出入国在留管理庁

相手の言語レベルや文化に適した環境の整備

外国人労働者の雇用にあたっては、相手が日本人従業員と同様に不自由なく就業ができるよう、環境整備に気を配る必要があります。例えば、宗教上の理由で食事に制限がある場合、会社全体の話でいえば社食メニューの見直し、現場レベルの話でいえば歓迎会のお店選びに気を配るといった配慮が必要です。

就業するのに差し支えない日本語能力を持っていても、企業独特のルールを理解するのに時間がかかる場合があります。そうした点を踏まえ、入社時の研修を整えたり、何か困った際に質問できる教育担当などの従業員を配置したりすることも重要です。ときには、業務のマニュアル化が、相手のスムーズな就労を手助けすることもあります。

また、「特定技能」の在留資格のように、入国前のガイダンスや居住場所の手配といった支援が必要となるケースもあります。法的な整備、言語レベルでの整備、文化や宗教に応じた配慮など、外国人労働者が雇用しやすい環境を整えましょう。

外国人労働者を採用する流れ

外国人労働者を採用するには、まずは募集をかけるところから始まります。ここでは、一般的な外国人労働者の採用の流れをご紹介します。

募集をかける

ほかの求人と同様に、求人サイトやハローワーク等を活用して募集を行いましょう。なお、募集を行うに、雇用を予定しているポジションに、どの在留資格が当てはまるのかを確認しておくと、その後の流れがスムーズになります。

該当する在留資格がわからない、もっと詳しく相談したいといった場合には、外国人雇用を専門に行う人材紹介会社や在留資格の申請に詳しい行政書士などのサービスを利用してみるといいでしょう。

求人票で書いてはいけない表現

職業安定法にもとづき、仕事の募集をかける際に、性別・国籍といった条件を設けることは禁じられています。そのため、「〇〇国籍の人募集」と、対象者を国籍で限定するような表記は認められません。「〇〇の言語をネイティブレベルで使用できる人」「〇〇の国の生活に精通している人」というように、業務内容と関連するスキルを明記しましょう。

書類選考・在留資格の確認

書類選考では、採用後に働けるかどうかの在留資格の確認を行います。日本にいる留学生や、海外に滞在する外国人を雇用する場合は、募集している職種と関連した学歴や職歴を持っているかどうかを確認する必要があります。

たとえば、デザイナーやエンジニア、通訳など専門スキルを持った幅広い職業への就労を認めている「技術・人文知識・国際業務」の在留資格では、本人が仕事と関連した学歴を持っていなければいけません。学歴ではなく、職歴を証明する場合には、専門性を持った10年以上の実務経験が求められます。

また、雇用予定のポジションが、同じ業務に従事する日本人と同等かそれ以上の給与を保障していることも、在留資格の申請の際にポイントとなります。

面接

面接は、業務に必要なスキルを有しているかどうか、職歴・学歴の確認や日本語レベルの確認を行う場所となります。

また、雇用時のトラブルを避ける意味でも、業務内容や雇用条件の説明をしっかりと行いましょう。日本の企業では「総合職」「メンバーシップ型雇用」のように、「人があって仕事が決まる」といった就職形態が主流です。新卒採用でも、学歴とまったく関連のない職種に採用されることも珍しくありません。

しかし、こうした雇用の仕方に馴染みのない外国人もおり、逆に面接で評価されたポイント(学歴や職歴)が不明確であった場合、就業に際して不安を抱いてしまう可能性もあります。雇用契約書の職務内容とは違う仕事を、入社してから頼まれるのもミスマッチを招く原因になります。

さらにいえば、在留資格の種類によって従事できる仕事の範囲が決まるため、「人事と経理とマーケティングもやってもらおう」というように、多岐に渡る業務を依頼することは認められません。

お互いにとって納得いく採用にするためには、仕事内容と雇用条件を明確にし、求めるスキルなどを伝えること。そしてその仕事でどのようなスキルを磨けるかをイメージしてもらうことが重要です。専門性の高い人材の場合は、職場での適性を見極めるために、英語や相手の母国語で面接を行うのも一つの方法です。内定が決まった際は、雇用契約書を作成しましょう。

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就労ビザの申請

内定のオファーを出し、承諾されたら、適切な就労ビザ(在留資格)への切り替えや、申請を行います。すでに働ける在留資格を持って国内で就労している外国人でも、仕事内容に適した在留資格が必要なのは先に説明した通りですが、見落としがちなのが留学生です。

日本の大学・短大等に在籍している外国人留学生や、卒業した外国人が就職活動を行うときは、「留学」または「特定活動」の在留資格で滞在しています。内定を出したあとは適切な在留資格への切り替えが必要なので注意しましょう。

手続きには1か月から3か月ほどを見込み、余裕を持った受け入れスケジュールで準備することが大切です。

受け入れ準備

雇用する外国人労働者が就労しやすい環境を整えましょう。海外から呼び寄せる場合は、飛行機の手配や住居、銀行口座開設、携帯電話の契約など、渡航だけでなく生活に関連したサポートが必要になる場合もあります。

雇用する人数や、日本語のレベル、就業内容によって外国人労働者向けの研修プログラムを用意するのも良い方法です。社内で日本語教育研修を行うほか、外部で日本語レッスンを受けるための費用補助といった制度を整えたり、社内に生活面を含めたサポート窓口を設けたりする方法もあります。

外国人労働者の採用面接時に確認するポイント

面接時には、仕事への適性を確認するほか、在留カードやパスポートの確認や、日本語能力の確認を行うことが大切です。それぞれ詳しくご説明します。

パスポートなど法的な書類の確認

在留資格の期限が過ぎている状態の外国人労働者を雇用したり、現在の在留資格が許可する業務とは異なる職種で働かせたりすることは、不法就労に該当します。

たとえ、事業主が「適切な在留資格を持っていないと知らなかった」と主張しても、採用前に在留カード等の確認をしていない場合には、処罰の対象となります。面接の際にしっかり確認しておきましょう。

参考:不法就労防止にご協力ください│出入国在留管理庁

日本語資格に関する質問

日本語能力は、外国人労働者を雇用する上で重要なポイントです。職種によって求められるレベルは異なるため、以下のように基準をある程度イメージしてから面接を行うのがよいでしょう。

例1)社内でのコミュニケーションがメインとなるエンジニアや研究職等の場合

仕事に必要な専門用語を理解する、メールでの読み書きが行えるといった点を重視し、適切な語彙の使用・尊敬語などの文法にはあまりこだわらない

例2)営業やカスタマーサービスなど対外的な折衝・コミュニケーションが中心となる職業の場合

ビジネスレベルの日本語能力、適切な語彙の使い分け、正しい文法能力などを重視する

高度な日本語能力を確認する場合は、面接の会話だけでなく、「日本語能力試験」や「ビジネス日本語能力試験」の成績を参考にしてもよいでしょう。

在留資格や雇用条件などを確認し、スムーズな外国人労働者採用につなげよう

外国人労働者を雇用する場合は、本人のスキルや適性の確認に加え、仕事内容に適した在留資格の有無が重要になります。在留資格の切り替えや申請が必要と判断される場合は、条件に見合った学歴や職歴を有しているかを確認しましょう。

また、面接では日本語能力・在留資格などの確認に加え、本人が仕事を通じて成し遂げたいことなどを確認することで、採用のミスマッチを防げます。雇用にあたっては、適切な在留資格の取得をサポートするとともに、外国人労働者が働きやすい環境整備を行いましょう。

この記事を書いた人

ヤマシタハヤト

ユアブライト株式会社 海外人材担当 主にベトナムに関する情報を発信しております。

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