特定技能・技能実習
農業分野での特定技能外国人の受入れについて解説します。
2019年4月より施行された特定技能制度は新型コロナウイルスの影響でこの在留資格を申請する外国人数は伸び悩んでいましたが、2021年8月現在も外国人の新規入国が困難となっている現在において、帰国待ちをしている技能実習修了者を中心として特定技能へ移行する外国人も増えています。
今回は14分野ある特定技能の分野の中でも農業分野での特定技能外国人を受入れする方法などについて詳しく解説をします。
特定技能の農業分野とは
特定技能制度では人手不足が深刻な14分野にて特定技能外国人の雇用が許可されており、それぞれの分野にて人手不足の度合いに応じて今後の受入れ人数目標値も設定されています。
農業分野は耕種農業と畜産農業の2つの種類に分かれており、それぞれ耕種農業は栽培管理・農産物の集出荷・選別など、畜産農業は飼養管理・畜産物の集出荷、選別などに従事することができます。
また、それぞれ栽培管理と飼養管理については主たる業務として必ず実施しなければなりません。 そして、それぞれの業務に従事している日本人が行っている仕事(加工・運搬・販売の作業・冬場の除雪作業など)については日本人と同様に行うことが許されています。
人材を見つける方法
農業分野にて特定技能外国人を雇用する際には主に下記3つの方法が考えられます。
➀農業分野での技能実習生の受入れ実績のある農協などに相談する
農業分野では農協などが監理団体となり技能実習生の受入れをしている場合も多いため、農協などに特定技能外国人受入れについての相談もできる場合が多いです。
技能実習生の受入れノウハウがあれば、特定技能外国人の受入れをする際にも出入国在留管理庁への申請業務や特定技能外国人へ実施する必要のあるガイダンスなども簡単にできる可能性もあります。
②ハローワークや民間の職業紹介所に相談する
特定技能外国人は自由な転職活動が認められているため、ハローワークなどで一般の求人を掲載することができ、それを見て応募してくる特定技能外国人もいるようです。
➂海外にネットワークをもつ民間団体や現地コーディネーターに相談する
海外にある技能実習生の送出し機関などは技能実習を修了した外国人と繋がっている場合も多く、特定技能として日本に戻りたい人材の募集を現地にて実施してもらうこともできます。
雇用契約の形態について
特定技能制度の中では農業分野と漁業分野に限り派遣を含む2つの雇用形態が認められています。
➀直接雇用
特定技能外国人を正社員として直接雇用する場合が該当します。
フルタイムの社員である必要があるため、アルバイトとしての雇用などは認められません。
②派遣社員として雇用
派遣事業者が受入れ機関となり、実際に就労をする農家は特定技能外国人を派遣社員として受入れすることになります。
➀と②の主な違いは雇用契約を結ぶ相手になります。
➀直接雇用の場合は農家と特定技能外国人が直接、雇用契約を結ぶことになりますが、②派遣社員として雇用する場合は雇用契約については派遣事業者と特定技能外国人が結ぶことになります。いずれの場合も指揮命令は農家が直接行うことについては変わりありません。
また、➀と②以外にも請負という方法での就労の仕方が考えられます。
請負の場合はたとえば、請負事業主(農協など)が特定技能外国人と雇用契約を結び、農家からも農作業務について請負契約を結びます。
この場合、特定技能外国人は雇用主である請負事業者が請け負った業務についてのみ請負事業者の指揮命令の下、作業を行うことができます。
雇用期間について
農業分野での特定技能外国人が就労できる期間は最長5年間です。
ただし、特に農業分野では農閑期などがあるため、農家の作物の種類によっては通年で仕事が無い場合もあります。そのような場合には、たとえば農閑期には母国へ帰国して繁忙期のみ日本にて就労するというような働き方も可能です。
その場合には都度、出入国在留管理庁へ在留資格変更申請が必要となるなど負担もありますが、帰国している期間は特定技能1号の5年間には加算されないため、1年の半年だけ就労するというような場合には通算では10年間の間、日本と母国を行き来することになります。
農業特定技能協議会について
農業分野にて特定技能外国人を受入れする企業は受入れ企業が協議会へ加入する必要があります。また協議会への加入は特定技能外国人を最初に受入れした日から4カ月以内に実施する必要があるとのことです。
協議会は主に下記の業務などについて行うとしています。
➀協議会が依頼する各種アンケートや現地調査へ協議会員への協力依頼
②外国人材の受入れに役立つ各種最新情報の共有
➂個別の受入れで生じた課題の共有とその解決に向けた構成員間の協議
農業分野で注意ポイント
➀日本の労働基準法では農業従事者については労働時間・休憩・休日の規定が適用されないため、特定技能外国人についても同様に適用されません。
②雇用条件について、同じ職場で就労している日本人従業員と同じように適切な労働時間・休憩・休日を設ける必要があります。
技能実習制度との比較
農業分野での技能実習制度と特定技能制度の違いは主に認められている業務範囲です。
技能実習制度では従事することのできる範囲が「施設園芸」「畑作・野菜」「果樹」「養豚」「養鶏」「酪農」に限られていますが、特定技能制度ではそのほかの幅広い範囲での業務に従事することが認められております。
また、派遣での雇用が可能となったことも技能実習制度では認められていなかった点です。
特定技能になるための試験
農業分野にて特定技能の在留資格を取得するためには「技能実習を2年10カ月以上修了」するか「技能試験・日本語能力試験に合格」をする必要があります。
技能試験についてはコンピュータ・ベースド・テスティング(CBT)方式(注)又はペーパーテスト方式で実施され技能試験ではありますが、実技の試験はありません。
また、海外での実施もされており、タイ・カンボジア・フィリピン・インドネシア・ミャンマーやその他の国々でも実施されています。
試験自体は比較的、難易度が低く、技能実習2号中にこの試験に合格して、他分野の技能実習生が農業の特定技能外国人として就労するケースもあります。
まとめ
今回は特定技能制度の農業分野について解説をしました。
農業分野では2021年8月現在、新型コロナウイルスの影響により入国する予定であった多くの技能実習生を中心とした外国人が入国しない為に、深刻な人手不足となっている農家もあり、日本政府が特例措置として特定活動にて他業種の技能実習を修了した外国人や留学生などを農業分野への転籍も可能としております。
また、農業と漁業分野だけが派遣での雇用契約を結ぶことを許可されていることからも農業分野に関わる機関が日本政府に働きかけをして、柔軟な働き方ができるように強くもとめていることが分かります。
他の多くの特定技能分野と同様に今後、少子高齢化や外国からの安い農産物などの影響を受け衰退していくことが予想されている日本の農業分野について外国人労働者を確保することが必要です。
また、農業分野では労働基準法の労働時間・休憩・休日の規定が適用されませんが、転職が可能な特定技能制度の下では優秀な外国人材を確保するためには良い雇用条件を提示する必要があります。